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『 ロスト・ケア 』 葉真中 顕

 
先日の記事でちょっとだけ触れた
あらためて今回は、この作品の感想です。

『 ロスト・ケア 』 葉真中 顕_a0153243_13363060.jpg
光文社文庫(¥680+税)


戦後犯罪史に残る凶悪犯に降(くだ)された死刑判決。
その報を知ったとき、正義を信じる検察官・大友の耳の奥に響く痛ましい叫び―悔い改めろ!
介護現場に溢れる悲鳴、社会システムがもたらす歪み、善悪の意味…。
現代を生きる誰しもが逃れられないテーマに、圧倒的リアリティと緻密な構成力で迫る!
全選考委員絶賛のもと放たれた、日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
(文庫本背表紙説明より)



大多数の人間にとって
「殺人」などの凶悪犯罪は、身近に感じることの難しいものなのでしょう。
日々テレビのニュースで流れる事件をみて眉間に皺を寄せることはあっても、それはあくまでも「対岸の火事」。
心のどこかで(自分には関係ない話)と感じているような気がします。
しかしこれが「介護」の果てに起きた事件となると
それは俄然、私たちに強いリアリティをもって迫ってくるのではないでしょうか。

介護疲れの果てに起きてしまう「介護殺人」。
今となってはそれほど珍しい事件でもありません。
家族や親を持つ私たちすべての人間にとって
それはもはや「対岸の火事」では済まされないはずです。

この作品のもつリアリティは、この「介護」をテーマに据えているところにあるのでしょう。


本作を読んでいて、何度も思いました。
(これは現代の黙示録じゃないか)と。

実は、本作のそこかしこに聖書の引用が出てきます。
それもかなり巧妙な引用、です。
読んでいる最中何度も
(この作家はクリスチャンじゃないか?)と思わされるくらいに。

(実際に葉真中 顕さんがクリスチャンかどうかは分かりません)

何カ月も何年も介護に携わる家族が
(もういっそのこと死んでくれたらいいのに)と考えてしまうことは罪なのか。
不自由な心と身体に縛られ続ける本人が
(もう充分だ、殺してくれ)と願うことは罪なのか。
しかも介護を受ける本人が
“ 家族に迷惑をかけるから ” 殺して欲しいと願っているとしたら。

それは当事者のエゴとして片付けられるのか。
家族への愛ではないのか。


再三申しておりますように
神様の考えていることって、さっぱり分からないときがあります。

神様はどうして私たちに
介護という “ 十字架 ” を背負わせるんだろう。
「それが育ててもらった親への恩返しだから」と、正論を口にすることは簡単です。
たしかにイエス様は私たちの罪の贖いとして
十字架を背負い、ゴルゴタの丘で磔刑に処されました。
それが私たちすべての人類に対する「愛」だというのは理解します。

しかし
イエス様の十字架と、いつ終わるとも知れない介護の日々という十字架と
いったいどちらが重い十字架なんだろう?

私が当事者になったとき
きっと天を仰いで叫ぶことでしょう。

(いつまでこれを続けりゃいいんだ?)
(オレはあんたみたいに強くねェんだよ!)

そして
(これがオレの罪の代償だというなら
もういいから、今ここでオレのことを裁いてくれよ!)



・・・敢えて本作の最後の部分を抜粋いたします。

>日没まで、もうさほど時間は無い。
>それは、あらかじめ分かっている。
>もうすぐ、夜が来る。


これは「予告」であります。
本作は私たちに警告しているのです。

「覚悟せよ!」と。

そして
「もうすぐ、夜が来る」のは、私もまた同じなのです。






by dscorp-japan | 2015-07-14 00:00 | | Comments(2)
Commented at 2015-07-14 20:32 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by dscorp-japan at 2015-07-17 00:45
☀******さん。
「子として親の介護が出来る幸せ」という考え方もあるのでしょうが
本書を読むと、そんな生易しいものではないなぁと痛感させられます。
line

これでも葬儀屋さんのブログなのだ


by dysmas
line
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