『 夢を売る男 』 百田 尚樹
久々の「本ネタ」でございます。
本はずっと読んでるんですが
個人的な感想として、あらためて記事にするまでの作品と思われるものに出会えていないのでした。
輝かしい自分史を残したい団塊世代の男。
スティーブ・ジョブズに憧れるフリーター。
自慢の教育論を発表したい主婦。
本の出版を夢見る彼らに丸栄社の敏腕編集長・牛河原は「いつもの提案」を持ちかける。
「現代では、夢を見るには金がいるんだ」。
牛河原がそう嘯(うそぶ)くビジネスの中身とは。
現代人のいびつな欲望を抉(えぐ)り出す、笑いと涙の傑作長編。
(文庫本背表紙説明より)
文庫本の初版は二年前。
たしか私は本作を、そのときすぐ購入していたんです。
でもずっと読まないで、他の本にばかり手を出しておりました。
なぜかと申しますと
あの頃の百田さんに対する個人的な印象が芳しくなかったからでありました ^^;
『永遠の0』はもちろんのこと
『風の中のマリア』
『モンスター』
『輝く夜』
『プリズム』
『幸福な生活』と
彼の作品自体は大好きなのですが
彼のメディアにおける(特に政治に関係する)様々な発言(というかスタンス)に、個人的に少々違和感を覚えていたということです。
本好きには「あるある」なことだと思うんですが・・・
読もうと思って本を買っておいても、ずっと後回しにされてる作品が山積みになってたりするものです。
私もまたそうでありまして (^^ゞ
先日、それこそ部屋の片隅に平積みされた未読作品の数々の中から(これでも読んでみるかァ)ということで手にしたのが本作でありました。
♢
・・・ところで。
皆様は(いっちょ小説でも書いてみるか?)とか思ったこと、ありませんか?
恥を忍んで申し上げます。
・・・私、ございますデス。
学生の頃
あの当時はパソコンなんて普及してませんでしたからワープロなんですけれど
3.5インチのフロッピーディスク(古ッ)に、結構なデータ量がありました。
とは申しましても
どれも皆、書きかけのものばかり(恥)
大した計画もないまま書きなぐる感じでしたから、すぐに行き詰ったり飽きちゃったりするという (^^ゞ
あ
もちろん今はそんなデータ、どっかに行っちゃいましたけどね。
♢
・・・という恥さらしなエピソードを踏まえて、本作です。
上の写真にはありませんが
文庫本の帯広告にはこう書かれています。
「一度でも本を出したいと思ったことがある人は読んではいけない!」
誰にも言わなかったけど
本作を手に取ったとき(それってオレのことじゃん!)と思ったのは事実デス。
で
あらためて読んでみての感想。
私は出版業界のことはまったく存じ上げないのですが
本作は、いわゆる素人作家たちに出版を勧める出版社(丸栄社)の編集長である牛河原という男を中心に、出版業界の現状というか、ある種の “ 闇 ” を詳(つまび)らかにした作品、といえましょうか。
どうやら出版業界には「ジョイント・プレス方式」なるものがあるらしく
これは、出版社と作者の双方が、出版にかかる費用を負担するというものだそうです。
牛河原を中心とした丸栄社はこれを巧みに利用して
潜在的に出版意欲を持つであろう素人作家を発掘してはこのジョイント・プレス方式を勧め(或いは出版費用の全額を素人作家に負担させて)、高額な出版費用を提示したうえでその利ザヤを得ているわけです。
問題は
(少なくとも出版業界に身を置く牛河原たちの目には)到底出版するに値しない凡百な作品たちを、その作者である素人作家をおだてたりして、半ば強引に出版にこぎ着けるという商法です。
「この作品は稀代の名作です」
「間違いなく売れると思います」
などとおだてられながら
いざ出版されるとまったく以て売れない、という状況を生み出すわけです。
でも牛河原たちは涼しい顔。
売れようが売れまいが関係ない。
高額の出版費用に含まれる利ザヤが入れば良い、というわけです。
一方で百田氏は本作のなかで
特に文芸作品や娯楽小説の販売低迷状況や、現代人の活字離れの構造に対して、牛河原の口を介して鋭いメスを入れます。
本作で語られる通り
たしかに人間は様々な「物語」を欲する生き物です。
でも、今はテレビをつければ原作のドラマ化された作品がタダで観られるし
ひとたびインターネットを開けば
動画サイトなどで様々なコンテンツが無料で提供されています。
牛河原はこう言い放ちます。
「そんな時代に高い金出して
映像も音楽もない『字』しか書いていない本を誰が買う?」
・・・私は買いますけど (^^ゞ
でも、新刊の単行本はたしかに買わないですね。
牛河原はこうも言います。
「世界中のインターネットのブログで、一番多く使われている言語は日本語なんだぜ」
「本当ですか?」
「2006年に、英語を抜いて世界一になったんだ」
「70億人中、1億人ちょっとしか使わない言語なのに?」
「日本人は世界で一番自己表現したい民族だということだ」
・・・その真偽は存じ上げませんが
少なくともブログをやっている私は、何ら反論できるものではありません。
とにかく
日本には(いつかは自分の本を出版したい)と考える人間が大勢いるということでしょう。
本作を読んでいて
特に牛河原の言葉ひとつひとつに、私は痛いところを突かれたような気分になりました。
そして、そのうえで思ったこと。
若気の至りではありましたが
私ごときが(小説書くぜ)なんて、もう考えませんッ m(_ _)m
いや
本作を読んでもなお「オレは小説書くぜ!」という方は、きっと “ 本物 ” なのでしょう。
・・・つまりですね
帯宣伝にあった、あの強烈な一言は
「そんな人こそ是非読みなさい!」ってことなんでしょうね。