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『 十字架 』 重松 清

 
先日、いただいたコメントの返信に
「今、読んでいます」とお答えいたしましたので・・・m(_ _)m

『 十字架 』 重松 清_a0153243_22232400.jpg
講談社文庫(¥648+税)

いじめを苦に自殺したあいつの遺書には、僕の名前が書かれていた。
あいつは僕のことを「親友」と呼んでくれた。
でも僕は、クラスのいじめをただ黙って見ていただけだったのだ。
あいつはどんな思いで命を絶ったのだろう。
そして、のこされた家族は、僕のことをゆるしてくれるだろうか。
吉川英治文学賞受賞作。
(文庫本背表紙説明より)



・・・「いじめ」を扱った小説です。
「娯楽小説」と呼ぶには、あまりにも重たいテーマの小説です。
こんな私でも
最初こそベッドに寝そべって呑気に読んでいたのですが、いつしか半身を起こして、襟を正すような思いでページをめくっておりました。

本作の大きな特徴のひとつとして
「いじめ」を、直接的な加害者や被害者以上に「いじめの傍観者」となった人物に焦点をあてているというところだと思います。

主人公は、自殺した少年に「親友」と名指しされた少年。
かつてはお互いによく遊んでいた仲だったのが
中学にあがって以降、なんとなく疎遠になってしまった。
中学二年になり、同じクラスの “ かつての友人 ” がいじめに遭うのを知りながら
主人公は他のクラスメイトと同様、傍観者となった。
ある日突然、かつての友人は自ら命を絶った。
そして
彼の遺書に主人公は「親友」として、その名が記されていた。
かくして
主人公の少年は「傍観者の代表」にさせられてしまった・・・


本作を読み進めるなか、何度も思ったことがあります。
(本作執筆の過程で、重松さんはさぞや苦しまれたことだろうな)
物語の原作者である以上
登場人物それぞれの思いに心を重ねなければ、こんなに深く心情をあぶり出すことなど出来るわけないのであります。
こと本作において
「登場人物の思いに心を重ねる」という行為が、いかに苦痛を伴うものかは想像に難くないのであります。

文庫本の最後に
『文庫本のためのあとがき』として、作者ご自身が本作執筆の経緯を記されています。
そのなかに、こんな一節があります。

(以下抜粋)
秋の二週間、集中して書いた。
頭から川に跳び込んで、潜ったまま対岸まで向かうように
このお話のことだけを考え、すべての時間を執筆に費やして、途中の息継ぎなしに書き上げた。
そんなやり方でお話を書いたのは初めてだったし、今後もないだろう。
(後略)


・・・本作は、そうして書かれた作品だということです・・・


タイトルの『十字架』とは、誰にとってのそれなのでしょう?

いじめに遭い、自ら命を絶った少年。
いじめを行った加害者の少年たち。
いじめを見ていながら何もしなかった、主人公を含めたすべての傍観者たち。
担任の教師と学校。
加害者と被害者それぞれの家族たち。

・・・おそらく、これらすべての人の十字架なのでしょう。

たったひとつのいじめが
これほどまでに多くの人に十字架を背負わせてしまうということなのでしょう。


しかし一方で
タイトルの『十字架』は最後の最後、ほんのりと優しい表情も見せてくれます。
それが救いなのかどうか、私には分かりません。
ただ私には
「それでも生きろ!」と十字架が語りかけているような気がしたのでした。


来年、本作が映画化されるそうです → 公式HP






by dscorp-japan | 2015-09-03 00:00 | | Comments(0)
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これでも葬儀屋さんのブログなのだ


by dysmas
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