『 Naturträne 』ニナ・ハーゲン
激しい雨の降る深夜。
少年はベッドを抜け出し、母親の寝室へと走った。
「お母さん! お母さん!」
廊下を走る少年の顔は恐怖におののき
鋭い稲光が少年を追い立てた。
剥がれて浮く床板の縁に、何度も足を取られる。
そのたびに涙で視界が霞む。
「お母さん! お母さん!」
廊下に並ぶ格子の窓は閉じているのに、臙脂色のカーテンは揺れている。
いつしか空間はぐにゃりと歪み
自分がどこへ向かっているのか覚束ない。
「お母さん! お母さん!」
永遠のような先、ようやく寝室の扉が近づく。
鈍く光るドアノブが見える。
もう少しだ。もう少し。
滑り落ちるようにドアに辿り着き、氷のように冷たいノブを回す。
・・・そこには嘘のような静寂があった。
雨音も雷鳴も、母の寝室を脅かすことは無かった。
ベッドの上、静かに呼吸するシーツ。
背を向けて眠る母。
そこは全くの平和だった。
もう大丈夫だ。
「眠れないのかい?」
そのままの姿勢で母親がこたえた。
「怖い夢を見たんだ」
ため息のような深呼吸が聞こえる。
また起こしてしまった。
お母さんは怒ってるかもしれない。
少年はほんの少し緊張する。
「ニナ・ハーゲンが出てきたんだ」
呼吸するシーツが一瞬止まる。
やっぱり怒られるかもしれない。
「ニナ・ハーゲンって誰だい?」
「東ドイツの歌手だよ。
『パンクの母』だよ」
夢のなかのニナ・ハーゲンを思い、少年は身震いする。
あの、鬼気迫る歌声が脳裏を占領する。
「一体どうして怖いんだい?」
「だって、こんな歌を歌うんだもの!」
↓
https://www.youtube.com/watch?v=4D-mQniVmis
・・・母は動かなかった。
許しを請うように、少年は母の背に手を伸ばす。
「ねぇ、お母さん・・・」
やにわに母が動いた。
それは一瞬の出来事だった。
まるでコマの様に振り向いた母の顔を、稲光が照らした。
「それはこんな顔かい?」
おわり♡
連日の厳しい暑さを忘れる為の怪談話かと思いきや…。
こ、こわい(別の意味で…)!!時折白眼を剥くし、大きな口にその場にいたら呑み込まれてしまいそう!!! オペラやっていた方だったりするのかな?!
それにしても今回のお話、ディーズさんの創作なんですよね?!
上手いなあ~☆
>「それはこんな顔かい?」
・・・ドキドキ・・・キャー!(≧∇≦)
ホラーじゃないけど、ちと最後驚き。
丑の刻に読んでたから~(笑汗)
ニーナさんの映像すごすぎです。ヘ(≧▽≦ヘ)♪
ある意味ガガみた。